永遠の夢に向かって冷たくしないで

 

冷たくしないで

冷たくしないで

















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Cheap Trick - Don't Be Cruel




































チープ・トリックのデビュー・アルバムが発表されたのは1977年のことだった。その頃、アメリカでもイギリスでも、そして日本でも、ロック・シーンの話題の中心は「パンク」だった。デビューする新人バンドはまず「パンク」でなくては注目を集めることさえ難しい時代だった。チープ・トリックは、もちろん「パンク」ではなかった。彼らのデビューは当時のロック・シーンの中でお世辞にも注目されたとは言えなかった。日本でのデビュー・アルバムの解説を担当した渋谷陽一氏は彼らを絶賛し、担当するラジオ番組でも彼らの楽曲をよくオン・エアしていたように記憶しているが、しかしそれでもチープ・トリックのデビューは一部のロック・ファンの目を向けさせたにとどまっていたように思える。そういった意味では「逆風」の中の出発であったかもしれない。

チープ・トリックはジャケットや雑誌などの写真の中に見るメンバーそれぞれの風貌がまず目を引いた。リード・ヴォーカルを担当するロビン・ザンダーとベースのトム・ピーターソンはなかなかの美形で、ロック・スター的な華やかさに溢れていた。リード・ギタリストのリック・ニールセンはとてもロック・ミュージシャンとは思えぬ「とぼけた」風貌で、蝶ネクタイとキャップ姿に、常におどけた表情が印象深かった。ドラムスのバニー・カルロスはさらにロック・ミュージシャンらしくなく、ちょっと疲れたサラリーマンのお父さんといった風であった。ロビンとトムが女の子たちの注目を集めたのは無理のないことだっただろう。その一方で男の子たちは、リックとバニーのおよそロック・ミュージシャンらしからぬ風貌に、かえって「新しいカッコよさ」を感じていたかもしれなかった。

女の子たちはロビン・ザンダーの容姿と甘い歌声がいちばんのお気に入りだったかもしれない。ロック・ファンの男の子たちはリック・ニールセンの容姿に似合わぬギター・テクニックに注目していただろう。リックのギターの硬質で乾いたサウンドは、チープ・トリックの音楽のまさに要だった。無駄なものをすべて削ぎ落としたような、エッジの鋭いギターのリフは彼らの音楽の最も魅力的な部分だと言ってよいだろう。さらに彼らの「音」を特徴付けていたもののひとつにトム・ピーターソンの弾く12弦ベースがある。通常四本の弦が張られるベースの、その一本部分にオクターブ違いの二本を加えて三本の弦が張られているというもので、そのためか彼のベースはギターと同等なほどの雄弁さを往々にして発揮することがあった。ドラムスのバニー・カルロスはリズム・キープに徹するタイプの人でバンド名に反してトリッキーなところはないが、ライヴ・ステージのクライマックスでは棍棒のような太く大きなスティックを振り回してドラムを叩く人物だった。ロビン・ザンダーは決して天才肌のヴォーカリストではないが、硬軟を使い分けて巧みな歌声を聞かせてくれた。

チープ・トリックの音楽は、簡単に一言で言い切るならば、「ハード・ロック」だった。時代に迎合して「パンク」を装うこともなく、前時代的に大仰に構えることもなく、いたってシンプルに演奏されるハードなロック・ミュージック以外の何ものでもなかった。しかし1970年代も後半になってデビューした彼らの「ハード・ロック」は、それ以前の「ハード・ロック」とはやはりどこか異質だった。重厚で翳りを帯びた「ブリティッシュ・ハード・ロック」とは全く異なるものだったし、豪放で土臭い「サザン・ロック」とも異なっていた。チープ・トリックの「ハード・ロック」は都市的で現代的で、そしてどこか少しばかり病的な香りがした。そのバンド名の通り、安っぽい仕掛けが施してあるかのように、その音楽は聴き手を翻弄するような痛快さがあった。その痛快さは巧妙で、猥雑で暴力的なイメージはあまりなく、洗練されて知的な匂いにも包まれていたのだった。

硬質な音の感触、エッジの効いたエキセントリックなギター・サウンド、ポップで親しみやすい曲調、チープ・トリックの音楽の特徴を挙げるとすれば、まずそんなところから始めるべきだろうか。収録された楽曲はどれもとにかく「痛快」な印象をもたらす。硬く乾いたギター・サウンドがリフを刻む様はひどく覚醒的で、不思議な疾走感を伴っている。そうした特徴はスピーディな「Hot Love」などで顕著だが、スローな楽曲でもその音の「硬さ」のためか、彼らの音楽の「痛快さ」が失われることはない。「Speak Now Or Forever Hold Your Peace」や「The Ballad Of T.V. Violence」、「Daddy Should Have Stayed In High School」といった楽曲は、このアルバムの収録曲の中でも「ハード・ロック」的な魅力を最も感じられるものだろう。特に「The Ballad Of T.V. Violence」のハードなギター・リフやロビンのシャウトなどはロック・ミュージック本来のアグレッシヴな魅力に溢れている。それでも楽曲自体はポップな魅力を兼ね備えており、自己陶酔的なソロ・プレイとは無縁だ。

彼らの音楽の大きな魅力のひとつが、その「ポップさ」だ。特にラストに収録された「Oh, Candy」は彼らのポップな魅力を象徴する楽曲だと言って良いだろう。彼らの音楽は、「Oh, Candy」や「Elo Kiddies」などの一部の楽曲では特に、1970年代前半のスイートやスレイド、スージー・クアトロ、ラズベリーズといったミュージシャンたちのヒット・ソングを連想させてもくれる。ポップで親しみやすい印象でありながら、充分にハードなロック・サウンドは、そうした音楽と共通するものだ。スレイドやスージー・クアトロといった人たちがヒット・チャートを賑わせていた頃、ロック・ファンの一部の人たちはそうした音楽を「子ども向け」の浅薄なものとして軽んじていた傾向があった。そのようなロック・ファンは、「ロック」であることと「ポップ」であることとは両立しないと思っていたのだ。チープ・トリックの音楽は、そうした意識を嘲笑うような痛快さに満ちている。

チープ・トリックの音楽は紛れもないロック・ミュージックだったが、1960年代から1970年代初期にかけてさまざまなサブ・カルチャーを取り込みながら肥大化した「ロック」の精神性から完全に訣別していた。そこに在るのは「カルチャー」としての「ロック」でなく、エンターテインメントとしての、ポップ・ソングの範疇としての、ロック・ミュージックだった。そしてそれは決してその音楽を貶めるものではない。「パンク」によって従来のロックが解体されてしまった時、ロックはその存在意義を別の地平に求めなくてはならなかったのだ。その中に硬質のロック・ミュージックとしてのポップ・ソングを具現化したチープ・トリックは、見事に時代に呼応していたと言えるのかもしれない。チープ・トリックのそうした在り方は続くセカンド・アルバムによってさらに充実し、ハードで疾走感に溢れたロック・ミュージックとしてのポップ・ソングを見事に完成させる。セカンド・アルバムによって日本で一気に人気を高めたチープ・トリックは1978年には来日、その際の武道館でのライヴ録音盤はアメリカ市場でも好意的に迎えられることになる。デビュー時には「ハード・ロック」の形容が相応しかった彼らだが、やがて歴史の中に語られるようになると、そのポップ・ソングとしての魅力が再認識され、「パワー・ポップ」の代表的バンドのひとつと見なされるようになるのである。
















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